伊集院静さん 良寛の筆跡について大いに語る。「良寛の書は”生の葛藤”をつなぎ止める」

伊集院静さん 良寛の筆跡について大いに語る。「良寛の書は”生の葛藤”をつなぎ止める」
テンジョウダイフウ?これって子供が書いたんじゃないの?

伊集院静の『文字に美はありや』の引用ばかりで

ネタ切れを疑う読者の皆様。

決して、そんなんじゃなくってよ。

伊集院さんの文字に対する表現が簡潔でわかりやすく

筆跡診断士としての観点からも素晴らしいので

紹介したい!と思っています。

この良寛の手になる文字、子供の用におおらか。

以下、この書についての伊集院静の文章を引用します。

”天上大風”。

日本の書の中で、あの空海を並んで現在も絶賛される人物、

良寛上人の代表作品である。

左にも良寛書とある。

 

良寛が村の子供と遊ぶ風景は有名だ。

或る時、一人の子供に

「凧をこしらえるから字を書いておくれ」とせがまれた。

良寛は筆を執り、たっぷりと墨を付け、”天上大風”と書いた。

読み方は諸説あるが、テンジョウダイフウでよかろう。

”天上”は天空、大空、宇宙、なんでもよい。

”大風”は万物に恵みを与えるもの、自然の風、

つまり仏でもよい。

”天”の書き出し、”上”も”大”もそうだが、墨がにじんでいる。

これはあきらかに何かを込めている。

良寛の書の特徴のひとつに、

筆を真上につり上げるようにして書いたことがある。

良寛流と言ってよかろう。

 

それならサラサラと書いたと思われようが、違う。

実に、誠実で、丁寧な筆運びであり、

一字一画に対して繊細で、しかも胆力の備わりが

良寛の文字を形作っている。

それは良寛の楷書、草書の字を見れば一目瞭然である。

 

良寛の書には正統と、由緒正しい気配がする。

正統とは、王義之であり、顔真卿、孫過庭、懐素といった

本場中国の書家が基盤にあり、由緒正しいとは、

これらの外来の手本を臨書し、独自性をこしらえた空海、

小野道風、藤原佐理、藤原行成といった、

やがて和様を生んだ人より得ているものだ。

 

勿論、良寛にとって書は本業ではない。

なのになぜ良寛の書が日本人にこれほどまでに

受け入れられるのか。

 

私は良寛の書は”生の葛藤”をつなぎとめたのではと感じる。

生きることは一瞬である。

天空を仰げば人など塵のごとき存在である。

なら姿勢をただしてすべてはまかせよう。

そうせざるを得ない生い立ちと漂泊の時間がある。

良寛は越後出雲崎の人である。(1758年-1831年)

生家は名主。

若き日、名主の習い、をしたが才なきと思いあぐねて

出家し、備中よりあらわれた国仙和尚にめぐり逢い、

師事し、備中で修業した。

 

ここより悩みの中に身を置き、三十四歳の時から

諸国を行脚し、最後に帰郷する。

農民や子供と接したのはこの里の日々だ。

左ページの文字は村人に

「わかり易い字を書いてほしい」と言われ、”いろは”を書いた。

良寛独特の細み、軽みがあるが、どっかりとして

”かな”が起立している。見事な限りだ。

 

あの漱石をして「これには頭が下がる」と言わしめた。

良寛を一語であらわせない。(伊集院静『141-142頁)

長々と引用したのは、文字の印象からコレほどの

情報を表現していることが素晴らしいと同時に怖い。

 

筆跡診断のおりにも筆跡をなぞり書きをエアーでします。

どういうスピードでどこに向かって書いた腺かわかるから。

 

”いろは”の写真は添付しませんでしたが

繊細な筆致で 一つ一つの字が方向が違っても弘法型で

書かれていて、曲線のカーブがゆるいです。

天上大風の朴訥とした印象と比べ”かな”はカーブが命。

このカーブに優しさ、包容力、公平さ、謙虚さの

すべてが見て取れるんです。

 

それはキング・オブ・文豪の夏目漱石が頭が下がるというのも

頷けますよね。

文字はその人そのもの!

筆跡診断の観点から言うと

写真の「天上大風」

1,「天」の一画目と二画目の間が以上に広い。

2.「天」が一番大きく最初に書いた文字。

3.「天」の左ハライが上に向かっての大きな曲線

4.「上」が小さい、しかし縦線上部超突出型で長い。

5.「大」と「天」の横線の右上がり角度が同じ。

6.「風」のカコイが広く中の虫の横線も他と平行。

 

これらをざっと見ただけでただ者じゃないエネルギーが

この四文字にあらわれていて、ドーンと天から落ちてくるものを

ドーンと受け止める包容力もとてつもない大きさ

全ての接点が開いていて「キチン」としてないのは

エネルギーが循環するということを心の深い深いところで

理解して潜在意識がそう思っているところまで悟っているから。

 

一瞬、子供が書いたんじゃないの?ぐらいの出来に見えるけれど

良寛というサインをみてください!

良の点の位置・・・過去の過去のそのまた過去の方に

縦棒も過去に向かって降ろされていて

「無私」の境地が子の字を作っています。

 

それに比べて「くつろぐ」の寛、何となく空と雲みたいに

書いています、そして大きく大地を踏みしめる足。

寛には点なんかありませんよね?

なぜ書いているか?

下の「出」「書」にも点があるように見えます。

この字にない飾こそが「存在証明」なんですよね!

ともかく、見ていて飽きません。

 

筆跡診断の勉強をしていると有名人のサインなど沢山みて

カーブや点、線などを細かく細かく分析します。

何度もなぞり書きして筆跡心理の観点からも分析します。

そして運気をあげる、魂を持ち上げる字の書き方を

マンツーマンで作り上げていきます

良寛のこのおおらかで懐の深い「無私」の字を見ると

心が洗われるような気持になります。

ぜひ、この四文字、なぞり書きしてみてくださいね。